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「システムズアプローチ」という考え方。



職場におけるメンタル不調者の増加が問題視されています。ことに学校という閉ざされた職場空間では、その仕事量の多さもさることながら、教員-教員間や教員-保護者間、教員-生徒間での人間関係が、すべての当事者となる「教員」の心を蝕み、休職に追い込んでいるといった事例が後を絶ちません。

そういった状況は、学校以外の職場でも散見されますので働く人々を取り巻く「心の問題」は、実に厄介であると同時に、早急に対処せねばならない…、具体的には使用者(管理職)の側に、十分なメンタルヘルスのための基礎知識を植え付けなければならないでしょう。

さらに同時に、メンタルヘルスのための基礎知識は、働く人々だけではなく、家庭を守る方々(主婦層)にも浸透しているべきです。なぜならば、メンタル不調に陥ってしまう原因の一つとして、前述したような「人間関係」がそのトリガー(引き金)となるケースがもっとも多く、そのような(誰かのメンタルがおかしくなってしまうような)人間関係を無意識のうちに構築している…、その主体がそれぞれの組織を構成するメンバー(人間)であるからです。

よってメンタル不調者の存在は、かなりの確率で、そのような状況に陥ってしまっている「組織」に問題があるとする見方があります。それが心理学療法の一つである「家族療法」の中の「システムズアプローチ」という考え方です。人間を「個」で見るのではなく、その「個」を取り巻く集合体として見た場合に、必ずその集合体にはそれぞれに個性があって、その個性が「負」の力学の下で機能している時、その組織内からメンタル不調者が発生する…、とする考え方なんです。

逆に、見方を変えれば、メンタル不調者の存在は、たとえその人のメンタル不調が初期の段階であったとしても、その組織自体に何かしらの問題が孕んでいることを示すシグナルのような役割を果たしており、そのシグナルに敏感に対応していれば、常に健全な組織であり続けることができます。そして、その組織の最小単位が「家族」なんです。

大方の場合、家族という組織を事実上運営(管理)しているのが、「母」であり「妻」である(ステレオタイプで申し訳ありません…)と予想しますが、この「母」なり「妻」の思考の中にシステムズアプローチの考え方が根付いていれば、その家族で成長を遂げる「子ども」も、そしてその家族の中で明日への鋭気を養う「夫=父」も、安定したメンタルの下で日々の生活を送り続けることができる…、というわけです。

では、システムズアプローチの具体的な実践方法とはどのようなものでしょうか。それを「家族」の単位で考えてみましょう。

例えば…、

Aさんの家庭では、子どもが中学3年になってから不登校気味となってしまったのですが、当然に担任教師はそのような状況を改善しようと強く働きかけをしてきます。その要請を受けて親(特に母親)も担任と共闘して、子どもの不登校を撲滅しようともがきます。しかし教師の側のアプローチも母親の側のアプローチも一向に効き目がありません。かえって子どもは意固地になり、遂には口もきかず、一日中部屋に閉じこもっているような生活に陥ってしまいました。不登校が常態化してしまったのです。

そんな時にシステムズアプローチの考え方は有効です。システムズアプローチ…、それを直訳すれば「組織への介入」ですから、まず母親は冷静になって「家族」という組織を見直します。そしてその組織に異常はないか…、少なくとも子どもが不登校になっている中で、その理由を誰にも告げることができずに(きっと)苦しんでいるであろう状況をつくってしまった原因として「家族」という「組織」を疑ってみる…、そこから始めます。

すると母親は、3人家族であるはずの「組織」の構成員から、父親が不在になることが多いことに気づきました。父親は仕事の激務から(他の家庭がきっとそうであるように…)子育てを初めとする家庭全般を母親に任せきりにしていたのです。思い起こせば、子どもが小学生に入学してからというもの父親の子育てに対する関心はめっきり薄れてきていたようです。「可愛い」だけの幼児期も終わり「複雑で難しい」学童期に、父親は「不在」を貫きました。よって母子は学業面でも生活面でもことさらに「学校」を頼るようになっていくのですが、同時に「学校」からの評価が子どもの成長を評するすべての尺度となりました。

そこで母親はさっそく「組織に介入」するべく動きます。まずは父親(=夫)に家族組織の構成員であるという自覚を改めて植え付けます。「会社>家族」という思考から「会社<家族」へと説得し、そして十分に「父親の存在の重要性」を理解してもらうのです。そして同時に「学校からの介入」を極力遮断しました。家庭から「学校の先生」の存在を消去するためです。そこには、学校をそして先生の教えを鵜呑みにしていた母親の反省がありました。

何年振りかに回復した父親(=男親)の役割は、まずは夕食を共にすることから始められ、次第に子どもの顔つきも変化してきました。何より「学校」からの再三の登校要請から解放された家族にあって、当たり前の一家団欒がその空気を徐々に変えていったのです。そして遂に子どもの口から重く閉ざされていた「事実」が告げられました。

その「事実」とは「学校での勉強がまるで理解できなくなった」というものです。そのことを子どもは薄々は感じていたのでしょうが、中学2年の最後の通知表で数学に「2」がついてから、急に焦り始めたといいます。「このままでは高校受験も危うい」と考え、塾に行き始めましたが、それも逆効果でした。「できない」「わからない」を上塗りするだけの塾は苦痛以外の何ものでもなかったのです。

その状況を打開したのは父親です。「塾へは行かなくてもいい」「代わりに家庭教師をつけよう」…、できるだけ子どもの現状を理解してくれる、そして勉強へのコンプレックスを解消してくれる家庭教師…、その大役を仰せつかったのが大学生であった父親の甥っ子、つまり子どもからみれば6歳上の従兄弟でした。

この家庭教師(従兄弟)の登場もまた、システムズアプローチの考え方としては「大いにあり」の選択です。週に2度、家族内に現れる外部からの信頼できる人間(家庭教師=従兄弟)は、新たな「風」を家族内に吹き込みます。こうして家族を支配していた「空気」は、父親の復権、学校の排除、家庭教師の登場…、という要因によってそれまでのものとは一変しました。

子どもの不登校は3年の2学期までには解消し、見事に第1希望の高校への進学も果たしました。

こうして私の勤務していた高校にSくんは入学して、私の担任するクラスの一員となりました。そしてここまでの話は、入学後の初めての保護者会で、皆さんが解散した後に「聴いていただきたいお話しがあります」と言ってSくんの母親が私に語ってくれたものです。

私はそれからずいぶんと後になってから「心理学」や「精神分析学」を学びに行くのですが、そこで「家族療法」と「システムズアプローチ」を学んだ時、思わずSくんのお母さんが脳裏に浮かびました。それからというもの、このシステムズアプローチの考え方を学校組織や部活組織、それに親族組織に取り入れることができないか…、そんなことを考えながら生きています。

システムズアプローチ…、これ、使えます!

 

 

 
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