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マイノリティー化する子どもたち



近ごろ、教室から「荒れ」が目に見えて減ったと言われる。
それは確かに現場の教師たちも感じているだろう。授業中の立ち歩きは少なくなり、暴言も騒ぎも影を潜め、かつて「コントロール不能」と呼ばれた学級崩壊の光景は、もはや流行遅れの写真のように扱われている。

だが、その静けさを前にして、私はある種の不気味さを覚えてしまう。
 
荒れが消えたのではなく、荒れる余白が消えてしまったのではないかと。

背景には、少子化という誰も逆らえない構造変化がある。
街を歩けばそれがよくわかる。放課後、校庭に響く子どもの声は驚くほど少なく、夕暮れの路地は子どもの気配を失った。
 
大人の数は変わらず、むしろ都市部ではサラリーマンやシニア層が増え、子どもの相対的な存在感は薄まっていく。
 
子どもは、かつてのように「多数派」ではない。
 
いつのまにか、子どもは社会の中で静かな少数者になっていた。

その構図は学校でも変わらない。
少人数学級、丁寧な支援、手厚い加配。
 
教育行政は一様に「より細かい目を」「より丁寧な見守りを」と大人の密度を高めていく。
 
これは一見、子どもの味方であるかのように見える。
 
しかし、目が増え、手が増え、耳が増えたというその事実は、子どもの側から見ると、より逃げ場が減ったことを意味しないだろうか。

子どもを守るはずの大人たちが、結果として子どもを常時照射する巨大な光源となり、影のような時間~雑に過ごしてよい時間、誰にも見られていない時間~を奪ってしまっているのではないか。
 
子どもはしばしば騒ぎ、衝突し、無駄な動きをして世界を確かめる。ところが、今の教室では、その「無駄な動き」のための領域が驚くほど少ない。
 
以前ならば、教室の片隅で不機嫌を撒き散らす子どももいた。廊下を当てもなく歩く者も、授業を邪魔する者も、十分すぎるほど存在した。

教師の側にすれば大問題だったが、子どもの側から見れば、そこでようやく自分を持て余す自由を行使していたとも言える。
いま、あの鬱陶しい自由はどこへ行ったのか。

教師の多くは「落ち着いた」「指導が通りやすくなった」と語る。
だが、その言葉の奥に、どこか言い淀むような気配がある。
 
本当に落ち着いたのではなく、
子どもが自分の存在を小さく折りたたむ術を身につけてしまっただけではないか・・・そんな疑念が、ふと彼らの胸をかすめているようにも見える。
 
教師は増えた。支援員もいる。加配もできるし、スクールカウンセラーも控えている。
 
学校は「大人の密度」を高めることで、問題が起こる前に芽を摘む体制を整えた。
これは安全である。しかし同時に、子どもが自らのエネルギーをぶつけて試すための“摩擦面”が減ったことでもある。
 
摩擦がなければ火は起きない。火が起きなければ、熱も明るさも生まれにくい。
私はこの現象を、静かな窒息と呼びたくなる。
 
大人の目が行き届きすぎる環境は、しばしば「息苦しさ」と「肩身の狭さ」を生み出す。
 
そして、子どもたちは無意識のうちに、大人の期待に寄りかかる以外の選択肢を奪われていく。
もうひとつ付け加えるなら、子どもが少数者になるということは、社会全体が「子どものわからなさ」を許容しにくくなるということでもある。
 
子どもが多数派だった時代には、大人も子どもも互いの世界に無頓着でいられた。
 
多少の雑音は当然、多少の乱暴は当たり前・・・そんな暗黙の了解があった。
しかし今や、子どもの行動は拡大鏡の下に置かれている。
「迷惑をかけない」「リスクを広げない」「問題化しない」「適応する」。
 
この四つの条件が、子どもという存在の輪郭をどんどん圧縮している。
私は思う。

「荒れ」が消えた理由を、私たちは美しい物語に仕立てすぎてはいないか。
教員の努力だけでは説明がつかない、もっと根の深い、構造的な圧力が働いている。
 
人口の非対称性という巨大な潮流は、誰かが意識しないままに、子どもたちのふるまいを静かに変質させている。
 
そして、その変質は、教室だけでなく、子ども自身の内側にも響いている。
子どもたちがのびのびと暴れた末に、疲れて床に大の字になって笑い転げる・・・そんな光景が減っている。
 
あの「無駄で尊いエネルギー」こそ、子どもを子どもたらしめていたのではなかったか。
もし、現在の「静けさ」が、そのエネルギーの削り取りの結果であるならば、それは教育の成功ではなく社会の劣化にほかならない。

荒れが減ったのではない。荒れるほど自由ではなくなったのだ。
その事実を直視しない限り、私たちは何を守ればいいのか、何を失ってきたのか・・・、そんなことにすら気づかないで日々を送ることになる。
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