今、敢えて「エンカレッジ教育」が必要な理由。

 1月そして2月は受験シーズンです。中学受験、高校受験、大学受験…、まるで日本の学校教育が示し合わせたかのように、受験に焦点を合わせた学習指導をしているかのような錯覚を覚えますが、実のところではそういた「受験」とは遠いところで、日々学習に勤しんでいる子どもたちもたくさんいます。

 いわゆる「エンカレッジ教育」とは「やり直し教育」のことで、小中学校で学び損ねてしまった基礎学習を、改めて高校で学び直すという考え方です。十数年前に東京都の公立高校の一部が全国に先駆けて「エンカレッジ教育」を看板にした生徒募集をして話題になりましたが、現在では都内に5校の「エンカレッジスクール(高校)」が存在しているようです。

 私立も公立も、ほとんどの高校が「進学校」の旗印の下で大学進学率を競っていますが、そもそも首都圏とて、その大学進学率は全高校生の50%を少しだけ超える程度に過ぎません。残りの50%の中では専門学校への進学が最も多く、就職希望者も少数ではありますが、確実に存在し、その割合は地方にいけば大学進学率を凌ほどの人数となっているのです。よって地方においては就職者に必要な基礎学力の徹底政策や、教養に重点を置いた学習指導が未だに健在であると聞きますが、首都圏においてはその限りではありません。

 首都圏における就職希望者への学習指導は、もちろん行われてはいるのでしょうが、彼らに求められるのは、学力…、というよりは資格や特殊なスキル、それに何と言っても「人間性」(真面目さ、忍耐強さ)であることは疑いようがありません。一部の成績優秀者が敢えて大学受験をせず、公務員や上場企業に「高卒枠」で採用されるというケースも伝統的に生き残っていますが、大半の就職希望者は、主に中小企業に期待される「縁の下の力持ち」としての役割を担うべく、「高卒」で就職していくのです。

 しかし、その(高卒就職者の)離職率(就職後3年以内の離職率)が異常に高いことをご存じでしょうか。大卒の(3年以内の)離職率が30%を超えたとして話題になりましたが、高卒のそれは40%を超えています。このことは、特に高卒の場合は、職場が求める人材と、実際に就職していく彼らが求める労働条件とのミスマッチが続出しているということであり、そのミスマッチの原因の大半が、高卒労働者の職場からの「逃走」であると言います。実際に「逃走」したかどうかは別にして、彼らはある時期を境に「逃げるように」職場から去って行くのだそうです。職場が伝統的に求めてきていた「高卒者」への要求スキル(能力)を彼らが満たしていないことが大きな理由であるとも聞いています。職場の期待に応えられないまま、居場所をなくして、または人間関係を悪化させて、例えば安易に「アルバイト」や「非正規社員」として単純労働に彼らはシフトしていくしかないのが現実なのでしょう。

 社会そのものが複雑化し、「高卒」といえども「愚直」なだけではまともに仕事を続けることが困難な時代となりました。ところが、国は、地方の自治体は、そんな高卒者の「能力」を十分に担保するだけの施策を行ってきたのでしょうか。彼らにこそ必要な教育は「エンカレッジ教育」…、そしてそこからの「資格取得支援」「情報技術獲得支援」、そしていち早く社会人となるための「一般教養支援」のはずです。しかし、そこの部分により多くの人的資源や具体的な予算が投入されたという動きを、少なくとも私は知りません。

 一流大学を出た教育行政職にある方々には、確かに一流大学の進学を目指す子どもたちに人的資源や予算を費やすことの方が、「選択と集中」という観点からは、合理的に思えるのでしょうが、そうではない…、つまり「非エリート」「非準エリート」…、つまりは市井の民となるであろう若者にこそ、社会は資源を豊富に費やすべきではないでしょうか。

 担任の先生は、どうかクラス内を見渡してみてください。私たちは、どこかで「エリート層」や「準エリート層」へのアドバンテージを創設してはいませんか? 彼らがエリートや準エリートを目指す、そのための環境作りには労を厭わないけれども、それ以外の「市井の民」に連なるであろう子どもたちのための、本当の学習環境は用意されているのでしょうか? 「勉強に躓いた」「勉強が苦しくなった」「勉強から逃げ出したい」と考える子どもたちのセーフティーネットは、備わっているのでしょうか? 

 「エンカレッジ教育」は、そうなんです…、エンカレッジスクールだけの任務ではないのです。あなたが、今、働いている「普通の学校」の中にこそ、真の「エンカレッジ教育」を必要とする子どもたちが…、必ず潜んでいます。そういった気配を感じる…、そんな感度も私たち教員には必要なんです。 

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